「この世界から電車で帰ったら、団地の階段下に穴を掘って、そうしたら電線があるでしょ。それを⬛︎⬛︎⬛︎してみて。そうしたら霊力を少しだけ感じることができるから。あなたに素質があればだけど」 「それって、この場所のエネルギーと少しだけ繋がれるっていうこと?」 「ちょっと違う。あっちの世界のエネルギーが0.0001だとすると、こっちは1億くらいのエネルギーがあるの。ほとんどの人には感じ取ることはできないけれど、ここには狂ってしまうくらいの強い渦があるの。」
追手が来た。話している暇はない。
公園のようなところに逃げる。
柵を跨いで逃げる。
しかし待ち伏せされていた。
グレーの服で身を包んだならず者に追手たちは、紫色の玉のようなものを巨大な銃に装填し、それを撃ち始める。球は私たちの体へと入っていき、そうすると、私たちの体の形が一部だけスライムのように粘性のものに溶けて変質し、そこの部分は「完全な紫色」になる。ゲームのバグで、テクスチャが貼られていない場所に、単色が塗られるように。
この球は霊的なエネルギーの球らしい。2人の身体に膨大なエネルギーが注入されていく。弾けてしまいそうだ。
そうして一斉射撃が終わると、今度は別の種類の球が発射される。これはエネルギーを逆に吸収していくものだ。
2人は衝撃で一切動けず、身体からエネルギーが奪われ、その直後に与えられることが何回も繰り返される。そうしているうちに、対象を死に至らしめることはないが(もしかするとこの世界はゲームのようなもので、死ぬということはできないのかもしれない)、霊力を感じ取り操作する能力は徹底的に剥奪される。。
ソニーの開発した金庫
90年代にソニーが開発したスマート金庫。非常にセキュリティが堅牢だがその反面、少しでも操作を間違うと永久ロックがかかってしまう可能性があり、説明書には「操作する場合は必ず、ソニーのカスタマーサポートと専用のビデオ衛星通信を繋ぎ、操作の状況を逐一共有できるようにすること」と赤字で強調されている。そのビデオ通信に必要な設備も商品に付属していた。カスタマーサポートも消滅し、その複雑な仕様も説明書に書かれている事項を除いてベールに包まれている今、世界最強の堅牢性を誇っている。
この金庫の中に、この世界の秘密、この世界をほしいままに操作できてしまう鍵があるのだろうか。
4階建ての無機質なコンクリートの建物に梯子をかけ、悪者たちが押し入っていく……
場面は変わり、小さなコテージのような場所。
先ほどの悪者たちを率いているトップの男2人組が到着する。何やら話をしている。
どうやら、この世界を発見し、その特異性を利権化しようとしている企業の役員?株主?らしい。
この2人はどうやら、この世界に存在する「スキル」(霊能力のようなもの?)を保持する全ての人物からそれを抹消、あるいは奪い取ろうとしているようだ。
ただ、現在の会社は逆に多くの人々の「スキル」を開発・成長させるという方針らしく、役員のうち、なんとかあと13人を説得して過半数を取得しなければならないようだ。
そのうちのひとりがこのコテージに住んでいるらしく、2人は彼を説得するつもりのようだ。
「お前も言っていただろう。ここには「スキル」はあっても文明や歴史はないと。一旦全てのスキルを奪い、それから文明や宗教が発展していくのを見届けてから、「スキル」を導入しなければ、健全な発展にならないんじゃないか?」
会話が交わされ、渋々了承する。
「よし、これであと12人だな」
「しかし、お前も大変だな。「スキル」が消滅したことでこの世界も全てリセットされ、産業も崩壊し、住人は苦しみの底に落とされる。そんなことがあと何万年も続く。その間、お前はこの世界に取り残される。それも私たちの計画のうちだから仕方がないし、お前が望んだことでもある。がんばれよ。」
そして、この者は数万年の文明の発展を見届けるようになる。少しずつ、霊力を用いない道具が発明されていき、大きな建造物を建てることができるようにもなっていく。そのなかでいくつもの苦しみが生まれ、宗教が生まれ、通貨が生まれていく。時はたち、石造りの神殿からほつほつと出ていき、豪雨に打たれながら空を見上げる、ボロボロの服を着た老人がいた。
暗い部屋のなかで、魔術と通貨の歴史に関する分厚い本がかすかな光に照らされる。そばには錆びた硬貨が何枚か転がっている。
何やら話の壮大さに感動して、泣いてしまっている自分がいた。
なろう系的な異世界転生もののお決まりを感じさせつつ、異世界転生ものでは見られないであろうテクノ封建制に対する批判的な表現であるとか、手塚治虫『火の鳥』的な壮大な時間感覚・逃避行・理不尽さ、あるいは、ドラマ『MANIAC』、ゲーム『CONTROL』、ゲーム『Kentucky Route Zero』、集団創作サイトBackroomに見られるような、放棄された古い機械に宿る亡霊、都市伝説——それはテック富豪たちが見せたくないであろう、盛者必衰の美学や、技術によって荒廃した現実を映し出す——そうしたさまざまな美学的な方向性を寝てる間に全部詰め込んだのすごいと思う。。